10月の三連休に2日間、南八ヶ岳の赤岳を巡る周回山行を行った。移動は新宿発の「特急あずさ」を利用。茅野駅からバスで美濃戸口へ入り、行者小屋をベースとしたテント泊での山行である。
【八ヶ岳 登山】灼熱を抜け出して赤岳。名物ステーキと標高2,899mの涼風に会いにいく旅
【山行概要】
- 日程: 10月中旬・一泊二日
- 総距離: 25.0 km
- 獲得標高: 2,429 m
- 総行動時間: 17時間3分
1日目:美濃戸口から行者小屋、阿弥陀岳往復
茅野駅の「駅そば」から南沢の入り口へ
10月の三連休の中日ということもあり、茅野駅は多くの登山客で賑わっていた。行動を前に、駅構内にある「駅そば 榑木川(くれきがわ)」で腹ごしらえを済ませることにした。注文したのは「鴨肉そば」。目の前に置かれた一杯からは、出汁の香りが湯気と一緒に立ち上って、それだけで胃袋を掴まれます。つゆの表面には、鴨肉から溶け出した黄金色の脂がキラキラ浮いていて、見るからに濃厚そう。
まずはつゆを一口。カエシのきいた濃いめの味に、鴨のどっしりとしたコクが重なって、五臓六腑にしみわたります。鴨肉は厚みがあって、噛むほどに旨味がじわっと溢れる。それが信州そばの香りと絡んで……。これからの長丁場に向けたエネルギー補給には最適だった。

駅を後にして、美濃戸口行きのバス乗り場へ向かうと、そこにはすでに大きなザックを背負った人々の長い列ができていた。
バスが到着すると、車内は登山客で埋め尽くされ、立っている客も大勢いるほどの超満員。僕も大きな荷物を足元に抱え込み、なんとか自分の居場所を確保する。
バスが市街地を抜けると窓の外には、八ヶ岳の裾野に広がるカラマツ林が流れ、これから向かう山頂への期待と、40分間揺られ続けるのんびりとした空気が車内に満ちていた。
10:04、バスはようやく美濃戸口(八ヶ岳山荘)に到着。
扉が開いた瞬間、車内のこもった空気から一転、ひんやりと冷たく乾いた山の空気が流れ込んでくる。バスを降り、重いザックを地面に下ろして大きく背伸びをすると、ようやく八ヶ岳の懐に足を踏み入れた実感が湧いてきた。

天気は快晴。青空の下、まずは標高1,490mの地点から歩き始める。ここから美濃戸の山小屋が並ぶエリアまでは、緩やかな林道が続いている。

のんびりと林道を進む道すがら、立ち枯れた木に綺麗な円形の穴が開いているのを見つけた。キツツキが開けたものだろうか。初めて見る、こうした小さな発見を楽しみながら、砂利道を踏みしめていく。

10:49 赤岳山荘を通過。

冷たく澄んだ水が湧き出す水場で喉を潤し、さらに先へ。

11:05 美濃戸登山口
ここで道は「北沢」と「南沢」の二手に分かれる。今日のベースキャンプとなる行者小屋を目指し、右手の「南沢ルート」へと足を踏み入れた。ここからが、重いザックを背負っての本格的な登山道の始まりだ。

南沢の静寂、そして雲に包まれた阿弥陀岳
美濃戸登山口の分岐を右に取り、南沢へと足を踏み入れる。これまでの砂利道とは一変し、足元には木の根と岩が混じる本格的な登山道が現れた。
道は沢沿いに続いており、常に水の流れる音が耳に届く。10月の南沢は、苔むした岩の間を清流が走り、八ヶ岳らしい湿潤で豊かな森の表情を見せてくれる。重いザックの重みが肩に食い込むが、沢からの冷気に助けられながら、一歩ずつ高度を稼いでいった。

沢の音が遠ざかると、代わりに自分の荒い息遣いが耳につくようになる。道はいつの間にか、水流を失った涸れ沢のようなガレ場に変わっていた。一歩踏み出すたびに、乾いた岩がぶつかり合う低い音が足元から響く。

12:56 行者小屋(標高2,350m)
南沢を歩き始めて約2時間。視界が一気に開け、赤い屋根の行者小屋に到着した。受付で幕営料2,000円を支払い、本日の拠点を設営する。三連休とあってテント場はすでに色とりどりのテントで埋まりつつあったが、なんとか平坦な場所を確保した。

設営を終え、サブザックに必要な装備だけを詰め込む。時刻は13時半を回った。今日の目的地、阿弥陀岳へのアタックを開始する。

阿弥陀岳:岩壁の登攀と雲の頂
13:39 行者小屋 出発
アタックザックに最小限の荷物を入れて、行者小屋の裏手から再び歩き出す。まずは赤岳へのメインルートである文三郎尾根方面へと標高を上げていく。

しばらく登ると、道が二手に分かれる分岐点に差し掛かる。直進すれば赤岳へと続く文三郎尾根だが、今回はここを右に折れ、「中岳道」へと入った。
中岳道は、中岳と阿弥陀岳のちょうど鞍部にあたる「中岳のコル」へと突き上げるルートだ。序盤こそ樹林帯の中を行くが、次第に背の高い木々は姿を消し、足元は岩とザレが混じる険しい急斜面へと変わっていく。息を切らしながら一歩ずつ登り詰めると、ようやく中岳のコルに到着した。ここからは、いよいよ阿弥陀岳の本体に取り付く。目の前には、これまで見上げていた巨大な岩の壁が立ちはだかっている。

コルからの登りは、急な階段や手も使って岩を掴む箇所が連続する。浮き石を落とさないよう慎重に高度を稼いでいく。
しかし、この頃から天候に変化が現れた。下界は晴れていたのに、谷底から猛烈な勢いで雲が湧き上がり、周囲の視界を急速に奪っていく。10月の冷たい湿った風が吹き抜け、岩肌を白く包んでいった。

15:11 阿弥陀岳山頂(標高2,805m)
行者小屋から約1時間半。最後は鎖の設置された岩場を乗り越え、阿弥陀岳の頂に立った。本来なら目の前に赤岳の勇姿が飛び込んでくるはずだが、山頂は完全に雲の中だった。時折、風に煽られて雲が薄くなる瞬間を待つが、パノラマが広がることはない。
標高2,805mの冷気に晒され、身体が冷え始める。長居はせず、今日歩いたばかりの道を慎重に辿りながら、行者小屋のテントサイトへと引き返した。

16:33 行者小屋 帰還
雲に包まれた阿弥陀岳から下りてくると、行者小屋周辺の空気は一変していた。先ほどまでの厚い雲が嘘のように晴れ渡り、八ヶ岳の稜線が夕陽を浴びて燃えるように輝いている。

西の空に陽が沈むにつれ、空は深い藍色へと溶け込んでいく。雲ひとつない夕焼け。あまりの美しさに、ただ立ち尽くして言葉を失った。

しかし、陽が落ちると同時に、山の「もう一つの顔」が姿を現した。放射冷却の影響で、気温が急激に下がり始めたのだ。

深夜から早朝にかけて
シュラフの中で眠りにつく頃には、辺りは刺すような冷気に包まれていた。テントの布地は結露を通り越して真っ白に凍りつき、外へ一歩踏み出せば、足元から「バキバキ」という激しい音が響く。ライトを照らすと、そこには驚くほど高く成長した霜柱がびっしりと地面を覆い尽くしていた。10月半ばとはいえ、標高2,350mの夜はすでに冬の入り口だ。ふと見上げれば、頭上には降るような星空と、月明かりに照らされた険しい山影。明日の快晴を約束するような美しい夜だった。

10月14日 05:00頃
朝、震えながらテントのジッパーを開ける。 空気は昨日よりもさらに研ぎ澄まされ、空には一点の曇りもない。

霜が降りた白い地面を越えて、再び歩き出す準備を整える。今日のルートは、硫黄岳から横岳を縦走し、赤岳へ。昨日、阿弥陀岳で隠されていた絶景を、今度こそすべて見るための2日目が始まった。
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