全てはこの山から始まりました。
いまから約7年前、軽い気持ちで会社のレクリエーション活動の一環として発足した登山部に入部。部活の一番最初の活動場所として選ばれたのが、神奈川県伊勢原市にある東丹沢の大山(標高1,252m)でした。登山をほとんどしたことがなかったその当時は「大山?あの遠足とかで行く所でしょう」とはるか上からの目線で、なんとかなるだろうと大した予備知識もなくお気楽な気持ちで足を踏み入れたのですが…。
その日は蒸し暑い雨上がりの6月の休日。朝一の電車に乗って伊勢原駅に集合した頃はまだ笑顔がありました。バスで30分程度で大山の麓、神奈中の「大山ケーブル」のバス停に到着。準備体操もそこそこにいざ出発。こま参道の階段をぬけてケーブルカーの駅を横目に大山阿夫利神社・下社へつづく男坂を登っている途中、何気に足下を見ると階段をひょこひょことシャクトリムシのような動きをした山ビルが健気に徘徊しています。最初は人生ではじめて見たその滑稽な生き物が何なのか分からなかったのですが、同僚が早速吸血されているのに気がつくと頭の中が軽い恐怖状態に。「ヒル」だ。すぐに脳裏によぎったのが「スタンド バイ ミー」の水溜りから上がってシャツを脱ぐとヒルが張り付いているパニックシーンでした。それからは蒸し暑いにもかかわらず頭からすっぽりとレインジャケット、首元にはタオルという漫画の減量スタイルでフウフウとむさ苦しい息を吐きながら登り続けました。水分補給のタイミングも分からずふらふらになりながらもなんとか本社まで登頂し、富士山や相模湾を望める眺望もそこそこに足を引きずるように下山。下山後に気がついたのですが、あれほど注意していたヤマビルに足首を噛まれていたらしく靴下に血が滲んでいたという悲惨な記憶。
大山登山・再アタック
そんな苦い経験も年々薄まっていきます。
年初に日頃の運動不足解消を目的に近場の山に行こうと心に決めて、2月の平日に初心者の私が一人、ハイキングに向かったのが大山阿夫利神社。前回の記憶もあり、ヤマビルの活動時期でない冬ならば問題ないのではと思いました。また、今回は1人なので途中でイヤになったらケーブルカーに乗っちゃえばいいやと考え「リベンジ」を果たしに行くことに決定。
今回の大山山頂へのルート
今回は単独行なので車で麓の「伊勢原市営大山第1駐車場」へ行き、「こま参道」→「大山ケーブル駅」→「男坂」→「大山阿夫利神社・下社」→「富士見台」→「ヤビツ峠分岐」→「大山阿夫利神社・本社(山頂)」→「見晴台」→「二重滝」→「大山阿夫利神社・下社」→「女坂」→「大山寺」→「こま参道」→「伊勢原市営大山第1駐車場」という極めて王道なルート。
ゆるゆるとスタート
よく晴れて空気が澄み切った2月の平日の朝9:30に市営大山第1駐車場に到着。
平日ということもとあり、駐車場は閑散としていました。
大山には市営駐車場が2か所あるのですが、その2つの駐車料金にはかなりの差があるんです。今回駐車した第1駐車場の普通自動車の料金は600円。ところが、わずか300mほど先にある第2駐車場は1,000円。かなりの価格差があるので、もちろん安い第1駐車場に駐車。
第1駐車場の脇にあるトイレに寄り、今回のルートを案内板でしっかりとチェックしてからスタート。まずはこま参道までの舗装路をのんびりと歩きます。
《09:50》市営第1駐車場出発
事前にネットで仕入れていた情報では、関東屈指の人気を誇る山とのことでしたが、2月の平日の大山は閑散としていたので良かったと胸をなで下ろしました。
《09:57》市営第2駐車場
5分ほどで第2駐車場に到着。ここもあまり人はおらず、2月にしては暖かい日差しが降り注いでいます。ここには観光センターが併設されておりケーブルカーの案内版があったので、すかさずチェックします。
その案内を見るとこの第2駐車場から大山ケーブル駅までの所要時間が15分とあります。そういえば結構、こま参道を通ってケーブル駅までの道のりはしんどかったなぁと、おぼろげに前回の記憶が蘇ってきます。
この第2駐車場には大山ケーブルバス停があり、ちらほらと2〜3人の参拝客(たぶん)がこま参道の方にゆっくりと歩いて行きます。その後ろをのそのそとした足取りで目的地にむかって歩きます。
こま参道突入。ここの階段には下の写真のように大山に関するインフォメーションやちょっとした豆知識がクイズのように掲載されています。前回は複数人で歩いていたのであまり気が付かなかったが、のそのそと1人で歩いていると目が行きます。
《10:11》大山ケーブル駅
やっぱりだ。結構しんどい。スタートして間もないということもあり、ゆっくりと歩いていたつもりがすでに少し息が上がっている。まだ15分しか歩いていないのに…。これはこの先が思いやられる。
事前情報では休日はこのケーブル駅に列ができるほど人が並んでいる写真があったのに、ガラガラでした。ケーブル駅を過ぎるとすぐに下社への男坂・女坂の分岐点があります。約30分で着く男坂と40分で着く女坂。所要時間を見るだけでも容易にその道のりの違いが想像できる。すでにここまでの道のりでハアハアと少し息が上がっているのに大丈夫か?と自問したけど、本当に辛かったら戻ってケーブルカーに乗ればいいやと考え、最初に立てたルート通り「男坂」を登って行こう。
しかし出鼻をくじかれます。分岐点を男坂方面に進むといきなり急勾配の石段が目の前に現れました。なんだ!? スタートからこの急階段は!?と少し心が揺れました。深呼吸を一つして、すこし心を落ち着け、登っていく気持ちを固めてから最初の1段目に足をかけました。
石段を踏み外さないように、確実に一歩一歩慎重に登って行きます。しかし、やっぱりしんどい、しんどいなぁ。久しぶり、というか全てリセットされた体には、急勾配の石段を一気に登るほどの体力と筋力はなく。登っては途中で何度も息を整えるため、まだまだ続く先を見上げては立ち止り、そしてまた少し登る。永遠に続くかと思われたこの動作を繰り返していくと、不意に石段が途切れ視界が広がりました。急階段ゾーンは一旦終了です。ここからはいわゆる登山道になります。今まで体にかかっていた重力から解放されたような気分になり、足取りも気持ち軽やかになりました。
少し落ち着くと、周りの景色を見る余裕がでてきました。すると鳥の鳴き声や遠くにはケーブルカーが通っている音が聞こえてきました。
不意にガサガサとかなり大きな不穏な音が脇の斜面から聞こえました。その日の男坂では前後に人の気配は全くなかったので緊張感をもって恐る恐るその方向を覗いてみると、そこにいたのは鹿でした。突然の鹿との遭遇で少し癒された反面、鹿の繁殖のとともにあの恐ろしいヤマビルの生息地域が広がっているのかと思うと複雑な気分になります。
少しずつ坂道にも体が慣れてくると、登っていくスピードも徐々に上がっていきます。そして女坂との合流地点に到着。のこり5分ほどで下社に到着という案内の標識が心を急かせます。
《10:50》大山阿夫利神社 下社
あ〜、ようやく下社についた。ここでも標高が約700mほどあるので眺めが良く、遠くの相模湾まできれいに見えます。いままでの疲れが一気に吹き飛ぶほどの景色にしばし心を奪われれました。
この大山阿夫利神社の阿夫利は雨降りに由来するといわれています。初め「あふり」と聞いたときは、有名なラーメン屋AFURIしか思い当たらなかったのですが、そのラーメン屋さんの名前の由来となっているとのことでした。なので今でも大山阿夫利神社と聞くと、すぐにあの柚塩ラーメンを連想してしまいます。
今回の目的は山頂なので、下社でのお参りはそこそこに脇にある頂上登山口に行き、安全祈願のお札とともに再び進みます。
気分一新、新たなスタートです!と思ったのも束の間、またいきなり急階段が待ち構えています。あ〜、また階段かぁとこれには少し心が萎えました。しかしそんな事も言ってられないので、のそのそと登り始めました。
出だしの階段を登ると一気に登山道っぽくなります。道中にある石柱には○丁目と記されていて(山頂が28丁目)、おおよその現在地がわかるようになっています。その石柱を目安に自身の体力と照らし合わせて登って行けます。幸いなことに前後にほとんど人がいなかったので自分のペースで登っていけました。
この登山道には樹齢600年「夫婦杉」、「牡丹岩」、「天狗の鼻突き岩」、そして20丁目にある富士見台からの富士山など見所があります。ひたすらハアハアフウフウと山頂を目指して登っている中で、それらの見所で息を整えながら周りの風景を楽しめます。
ようやく20丁目の富士見台に到着。冬の澄み切った空の下、丹沢の山々の先にこれぞ、まさに富士山というような雄大な姿が見えました。なんだか神聖な気分になります。
富士見台からさらに進むとヤビツ峠との分岐点がありました。山頂まで300m。もう本当にすぐそこです。標高も徐々に上がってきて1,000mを超えました。当然気温は低いので、残雪がちらほらのこっています。ただそこまで道がぬかるんでいることはありませんでした。
《12:01》大山山頂
そして山頂の鳥居が見えてきました。やったぞ! 28丁目に到着だ! 道中の石柱の表示がなかなか減らずに、8丁目とかその辺りでは本当に登頂できるのかという不安な気持ちを抑え、また20丁目以降は早く楽になりたいという焦りも抑えて登ってきてついに山頂に届いた。
山頂は奇跡的に風がほとんど無く、暖かい日差しが降り注いでおり、この季節としてはびっくりするくらいの暖かさでした。下社からの景色も素晴らしかったのですが、標高が高い山頂からの景色が絶景です。きっと登り切ったという満足感もプラスされた事もあるかとおもいますが。
早速空いているベンチを見つけ荷物をほどき、昼食の準備です。おにぎりでも買って行こうかと思っていたのですが、事前の予報だと寒くなりそうだったので、暖かいインスタントラーメンを持ってきました。このために麓からガスと水のペットボトルを追加で1本もってきました。素晴らしい景色の中で食べる温かくて少し辛いラーメンは疲れた体にじんわりと沁み込んでいき、元気が戻ってきました。
《12:31》下山開始
最高のランチを食べて少しのんびりと過ごした後、体が冷えないうちに下山します。下山ルートは見晴台方面に向かい、二重滝を見て、下社に行きます。
まず最初のチェックポイント・見晴台までは2.5kmほど。見晴台方面の道にはかなりの残雪があり、ぬかるんでいる場所が多く、滑らないように足下に気をつけながら下りていきます。
慎重に下っていくのですが、目の前の澄んだ空の青と相模湾の青が融合した景色は、少し大袈裟ですが地球を感じることができました。素晴らし過ぎて、なかなか足元に集中できない!
《13:16》見晴台
2箇所くらいの少し危険な鎖場に注意しながらも全体的にはそこまで急勾配ということもなかったのでスムーズに下ってくると1時間弱で見晴台に到着。ここにはベンチとテーブルのセットがあります。登山道にはほとんど人がいなかったのですが、このテーブルベンチには人が10人程度いたので、写真は取れず。人も多かったので見晴台では一息入れてすぐ林道をすすみました。
上りに比べたら下りは体力的にも本当にラクで、周りの景色を楽しみながら時折鼻歌が出るくらいの余裕が出てきました。見晴台ルートの名所「二重之滝」は残念ながら水がほとんどありませんでした。
《13:35》大山阿夫利神社 下社
下社に到着。そのまま女坂へ。大山寺まで15分、大山ケーブル駅まで30分までのと事。途中「大山七不思議」があります。それぞれエピソードがあるので下りながら探します。
《13:50》大山寺
女坂は途中で大山寺を経由します。参道の階段の両脇を銅像が立ち並んでいました。
《14:05》大山ケーブル駅
大山ケーブル駅まで下ってきました。ゴールまでもう少し。
《14:16》大山ケーブルバス停
無事、大山登頂成功。9:50に出発し、14:20には戻ってこれたので4時間半の行程でした(休憩30分)。久しぶりの登山という事もあり、上りでのペース配分が難しかったです。ただ危険な箇所も少なく、トラブルがあればケーブルカーを使えるという点で一番最初の登山には安心でした。さらに景色が良いので季節によって様々な印象をもらえそうです。
コメント