毎年4月17日、上高地への唯一の入り口である「釜トンネル」のゲートが開き、長い冬季封鎖を終えた上高地公園線が再び動き出す。その開山後、初めての日曜日。僕はまだ残雪を残す穂高の山々を見にいくため、まずは車で沢渡(さわんど)駐車場へと向かった。
沢渡バスターミナルから出発
上高地はマイカー規制が実施されているため、車は沢渡に駐車して、ここから先はシャトルバスかタクシーに乗り換える必要だ。何ヶ所かある駐車場で僕が選んだのはバスターミナルに最も近い「第3駐車場」。料金は1日800円。ちなみに、足湯があるのは隣の第2駐車場になる。
上高地へ行く前に!市営さわんど駐車場の場所・料金とシャトルバス情報

駐車場からすぐの入口を通り、地下通路を抜けてバスターミナルへ向かう。

バスターミナルは広々としており、施設も新しく整っている。まずは切符売り場で乗車券を購入。上高地までの往復運賃は大人3,000円。券売機ではクレジットカードも利用できるので便利だ。バスは30分おきに出ている。

散策ルートの確認
ターミナル内のインフォメーションセンターには、上高地の詳細なウォークガイドが掲示されていた。今日のルートを再確認する。

今回は、以下の行程で歩くことにした。
往路: 大正池でバスを降り、梓川沿いの「Aコース」を歩く。大正池から田代池に行き、田代湿原(林間コース)を通って穂高橋まで行き、「Bコース」を通ってウェストン碑を確認し、河童橋まで行く。その後「Cコース」で岳沢湿原を経由して明神池、穂高神社奥宮を目指す。
復路: 明神から梓川左岸の道を通り、上高地バスターミナルまで戻ってバスに乗る。
バスで大正池へ
1番乗り場から「上高地行」のバスに乗り込む。

バスに揺られること約20分。まずは最初の目的地である「大正池」のバス停で下車し、ここから散策を開始する。
Aコース:大正池、水面に映る焼岳と穂高連峰

沢渡からバスに揺られること約30分。「大正池」の停留所で下車し、遊歩道の入口から池のほとりへと坂を下っていく。
大正池のほとりに立つと、まず目に飛び込んでくるのは水面の静けさだ。風が止まった瞬間の池は、まるで巨大な鏡のように周囲の風景を吸い込んでいる。
池の南側にそびえる焼岳(やけだけ)は、かつてこの池を生み出した原因でもある。荒々しい山肌と、山頂付近から立ち上るわずかな噴煙。その荒涼とした姿が、水面に「逆さ焼岳」としてくっきりと再現されている。

視線を北へ向ければ、そこには圧倒的なスケールの穂高連峰が横たわっている。4月後半のこの時期、山々はまだ深い残雪に覆われ、まばゆいばかりの白さを放っている。空の青と雪の白、そしてそれらを上下反転させて映し出す水面。立ち枯れの木々がその景色のなかに垂直なアクセントを加え、奥行きのある独特な空間を作り出していた。

大正池を後にして木道を進み、透明度の高い水が静かに湧き出す田代池へと向かう。

途中、広々とした河原に出るとそこにあったのは、白く乾いた立ち枯れ木と、荒々しい山肌を剥き出しにした焼岳が織りなす見事なコンビネーション。自然が作り上げたその完璧な構図を前にして、理屈抜きに心が動く。僕は吸い寄せられるように夢中でシャッターを切った。

木道をさらにを進むと、やがて視界が開け、田代池が姿を現した。原生林の中にひっそりと広がる浅い池には、透明度の高い湧水が静かに満ちている。

田代池を過ぎると、道は二手に分かれる。本来なら梓川を間近に望む「梓川コース」を歩きたいところだが、現在は歩道の欠損により通行止め。案内に従い、今回は迂回路となる「林間コース」へと足を踏み入れた。

大正池から40分。林間コースを進むと、梓川に架かる「穂高橋」が見えてきた。

橋の袂にある案内板を確認する。ここから先はウェストン碑を経て河童橋へと続く、散策の中盤戦「Bコース」へと入っていく。
Bコース:ウェストン碑から河童橋へ

穂高橋を午前8時頃に出発し、ここからは梓川の右岸に沿って整備された遊歩道を歩き始める。
案内標識を確認しながら進むと、ほどなくして岩壁に刻まれたウェストン碑が現れる。日本アルプスの魅力を世界に紹介した英国人宣教師、ウォルター・ウェストンのレリーフ。

さらに梓川右岸を北上していく。進行方向の右手、対岸を望めば、春の日差しを浴びて六百山、三本槍、そして霞沢岳がその勇姿を並べている。


残雪と山肌のコントラストを楽しみながら歩を進めると、午前8時30分、上高地の中心地である河童橋に到着した。


日中は多くの観光客で賑わう場所だが、この時間はまだ人もまばらで、静かな時間が流れている。橋の上からは、底の石が数えられるほど澄み切った梓川の流れと、まばゆいばかりの残雪を戴いた穂高連峰が一望できた。

道端の案内板で、改めて仰ぎ見る峰々を確認する。

西穂高岳、間ノ岳、ジャンダルム、奥穂高岳、前穂高岳、そして明神岳2峰。圧巻のパノラマ。
Cコース:河童橋、岳沢湿原から明神、穂高神社奥宮へ
午前8時30分に河童橋を後にし、次に向かうのは「Cコース」――岳沢湿原を経て明神へと続く道だ。ここからは少し森が深くなるため、熊除けの鈴をチリンと一つ鳴らし、木道へと足を踏み入れた。

原生林のなかに敷かれた木道を進むと、やがて岳沢(だけさわ)湿原に到着した。


立ち枯れの木々が水面に影を落とす湿原は、静謐さに包まれている。木々の隙間からは、真っ白な雪を纏った穂高連峰が時折その端正な姿を見せ、その美しさに何度も足を止めてしまう。

湿原を渡る風は爽やかで、木漏れ日が水面をキラキラと照らしている。ふと足元の澄み切ったせせらぎに目を凝らすと、岩の陰に静かに定位するイワナの姿を見つけた。


林の間からは、梓川のエメラルドグリーンの水面が時折覗き、その鮮やかな色彩に目を奪われる。

明るい林、清らかな水、そして壮大な山。河童橋から明神池(穂高神社奥宮)までの約1時間は、上高地の自然の豊かさを五感で受け止める、実に気持ちのいい散策だった。


明神池:神域の静寂と嘉門次小屋の歴史
午前9時30分、散策の目的地である明神エリアに到着した。見上げる空には、鋭く切り立った明神岳が堂々とそびえ立っている。

穂高神社奥宮の鳥居をくぐり、神域へと足を踏み入れる。参道の先には、上高地の歴史を語る上で欠かせない嘉門次小屋(かもんじごや)が佇んでいる。
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