【乗鞍岳 登山】のんびりと三本滝から剣ヶ峰へ。残雪と新緑輝く絶景を歩く19kmのトレイル

    ハイキング/登山

     乗鞍岳といえばバスで標高2,700mの畳平まで行ける手軽さが魅力ですが、あえて標高1,500mの三本滝から歩き出すルートを選択。乗鞍岳の「三本滝〜剣ヶ峰」をピストンで踏破。吸い込まれそうな青空に映える残雪の大雪渓のや3,000m峰の絶景、そして名勝・三本滝を巡るのんびり登山記録です。

    稜線の輝きと、目覚めゆく五感。「体験」を惜しみなく味わい尽くすトレイルの始まり

     6月の終わり、長野の朝はまだひんやりと心地よい三本滝駐車場の静かな空気の中に身を置いた。見上げれば、吸い込まれそうな青空を背にして、乗鞍の稜線が眩く輝いている。

    三本滝レストハウスの駐車場が今回の起点

     ブーツの紐を締め直す。乗鞍岳は頂上付近の畳平までバスで行けるが、いきなり頂上のまで連れて行ってもらっては、あまりにも「もったいない」。せっかくの休日登山をフルに楽しみたい貧乏性の僕は自家用車で上がれる最も高い位置にある三本滝レストハウスの駐車場から歩くことにした。

     ここから自分の足で標高差を一歩ずつ埋めていくこと。それこそが、僕にとっての最高の贅沢だ。効率よく頂上だけを「点」で拾うのではなく、ふもとから頂へと続く「線」としての楽しみたかった。

     自分の足で一歩ずつ土を踏みしめるたび、なまっていた僕の五感は、少しずつ眠りから覚めていく。久しぶりの登山に興奮しながら、登り始めた。

    新録に輝く森を抜け、白銀の斜面へ

     7時49分、しっとりと濡れた静かな樹林帯の中に佇む冷泉小屋を、僕は一定のリズムを刻みながら通過した。歩を進めるごとに、周囲を囲んでいた背の高い針葉樹たちが、少しずつその背を低くし始めた。

     さらに高度を上げ、8時4分には位ヶ原山荘へと辿り着く。

     六月の乗鞍は、まさに水の季節だ。
     道中、時折遠くに聞こえてくるのは雪解けのせせらぎだ。冷たい水が岩を噛み、飛沫を上げる音が、心地よいリズムとなって僕の背中を押してくれる。木々が少しずつその背を低くし、空がぐんぐんと広がってくると、視界の先には初夏の光に輝く白銀の光景が姿を現した。

    位ヶ原山荘で小休止
    登山道に積もった雪の上を歩く

     頂に降り積もった膨大な雪が、初夏の太陽に溶かされ、無数の透明な筋となって山肌を駆け下りている。冷たい水が荒々しい岩を噛み、真っ白な飛沫を上げて踊るその音は、森全体が呼吸しているような生命力に溢れている。少しずつ重くなり始めた僕の足取りを、後ろからそっと押し上げてくれる心地よいリズム。

     見上げれば、遮るもののない蒼穹がどこまでも深く、ぐんぐんとその領域を広げている。

    雪を踏み抜かないように気をつけて進む

     いよいよ目の前に迫った主峰・剣ヶ峰を見上げた。初夏の眩いばかりの光を一身に浴びて、乗鞍岳の広大な斜面を覆う残雪が、キラキラと輝いている。

    雪解け水が流れる沢を登っていく

    大雪渓の雪を踏みしめて

     9時14分、大雪渓。
    大雪渓の脇を登り詰めると、そこには六月の眩い初夏の太陽を全身に浴びて、雪と戯れるスキーヤーたちの姿があった。彼らは重い板を肩に担ぎ、ただ一筋の快楽という報酬のために、自分の足で何度も斜面を登っていく。額に汗を浮かべながら、斜面と真っ向から向き合う彼らの姿を見ていると、純粋な共感と、なんだか愉快な気分になった。

    大雪渓とスキーヤーたち

     標高が上がるにつれて、太陽の光はさらに鋭さを増していく。
     足元の雪は鏡のように光を跳ね返し、目を開けているのが眩しいほどだ。ふと顔を上げれば、そこには深みを増した「乗鞍ブルー」の空がどこまでも高く広がっている。
     白と青と緑。この3色に塗りつぶされた世界を、自分の呼吸音だけを供にして歩いていく。今までの疲れなんか、この潔い色彩のコントラストの中に、綺麗に溶けて消えていくような気がした。

     僕は慎重に大雪渓の脇を「ザクッ、ザクッ」という確かな手応えを楽しみながら進んでいくと、9時40分、肩ノ小屋に到着した。

    大雪渓の脇を進む

    誰もが3,000メートルの風に吹かれる場所

    剣ヶ峰への登山道

     肩ノ小屋に到着すると、それまでの静かな雪渓歩きとは一変して、色とりどりのウェアに身を包んだ人々が行き交う賑やかな世界が広がっていた。

    剣ヶ峰に行く登りの途中からは今までの道のりが眼下に広がる

     乗鞍岳の素晴らしいところは、この懐の深さにある。バスを利用すれば、お年寄りから小さな子供まで、誰もが標高2,700メートルの畳平まで一気に上がることができるのだ。そこから少し歩くだけで、日本屈指の3,000メートル級の展望が、誰の目の前にも等しく開かれる。小さな手を引かれた子供や、一歩ずつ歩みを進めるお年寄りが、一様に山頂目指して登っていく。

    ごつごつとした岩場が続く
    頂上小屋
    頂上小屋に並ぶグッズ

     山を楽しむのに、決まった形なんてないのだと改めて思う。 乗鞍岳がこれほどまでに愛されるのは、その誰にでも開かれた優しさがあるからだ。ここには、普段はなかなか触れることのできない神秘的な雲の上の世界が、すぐ手の届く場所に広がっている。

    みんなで分かち合う、雲の上の特等席

     老若男女、いまこの瞬間に浴びているのは、等しく凛とした3,000メートルの風だ。

    権現池

     蚕玉岳(こだまだけ)を越え、いよいよ最後の登りへ。10時42分、僕はついに主峰・剣ヶ峰(3,026m)の頂に立った。

    北アルプス、飛騨山脈の山々が一望できる

    「すごいね」「綺麗だね」という、あちこちから聞こえてくる飾らない感動の声。それらが風に乗って届くたびに、僕の心も自然と温かくなっていく。誰もが気兼ねなく、この最高のパノラマを共有できること。それこそが、乗鞍という山が持つ、最高の特徴だと思う。
     どっしりと大地に腰を据えた御嶽山がゆったりと輝き、北には穂高や槍の鋭い稜線が彫刻のように青空を切り裂いている。そして足元を見下ろせば、雪の間に深い瑠璃色を湛えた権現池。

    剣ヶ峰の登山道

     山頂を極め、標高3,026メートルの風に吹かれた後の下り道。午前11時50分、心地よい達成感と引き換えに、身体がひそかに悲鳴を上げ始めた頃、僕は再び肩ノ小屋へと戻ってきました。

     売店の冷蔵庫から、赤いラベルのコーラを取り出す。指先に伝わる、震えるような冷たさ。ベンチに腰を下ろし、ペットボトルのフタに手をかける。

    「プシュッ」

     静かな山の空気に、その小気味よい音が響く。一気に喉へ流し込むと、強烈な炭酸の刺激と、暴力的なまでの甘みが、山頂への登りで使い果たした僕の細胞一つひとつに、カツを入れるように染み渡っていきました。

    「……ああ、生き返る」

     普段では手に取ることさえ珍しいこの黒い液体が、3,000メートルの頂きを越えた後の身体には、自然と欲しているから不思議です。喉を突き抜ける爽快感とともに、奪われていたエネルギーが指の先まで満ちていく。この「山コーラ」の美味さに唸る瞬間は最高だ。

    肩の小屋

     20分ほどの、贅沢な小休止。 空になったペットボトルを置き、僕はまた歩き出す準備を整えました。コーラがくれた魔法のような元気をお守りにして、残りの長い下り路を、一歩ずつ踏みしめていくため。

    畳平のバス停が見える

    19キロの旅を終え、三本滝の鼓動に還る

     山頂の絶景を心に刻み、僕は下山の路についた。
     11時50分に再び肩ノ小屋を通り、太陽の光を跳ね返す大雪渓を軽快に下っていく。13時5分に肩の小屋口を過ぎる頃には、空気の熱が少しずつ増し、森の湿った匂いが戻ってきた。

     13時23分、位ヶ原山荘を通過。ここからが最後の踏ん張りどころだ。
     下るにつれて足裏に溜まった熱は心地よい重みへと変わり、19キロという道のりが確かな実感を伴って身体に刻まれていく。そして駐車場へ戻るその前に、僕は本日の総仕上げとして、番所大滝、善五郎の滝と並び「乗鞍三滝」の一つ、三本滝へと足を向けた。

     森の奥から響いてくる、大地を震わせるような地鳴り。
     目の前に現れた三本の滝は、それぞれが異なる表情で岩壁を駆け下り、真っ白な飛沫を上げている。そのダイナミックな水の鼓動を全身で受け止めると、登りでかいた汗も、歩き通した疲れも、すべてが清らかな水流の中に溶けていくようだった。

    三本滝の一つ

     14時58分。滝のしらべに送られるようにして、僕は再び三本滝駐車場へと帰り着いた。8時間30を超えるこの山行も終わりだ。

    雪解けの水を集めて流れる川はエメラルドグリーンに輝く

    凝縮された自然のドラマ。乗鞍だから味わえた贅沢な時間

     三本滝駐車場に帰り着き、ザックを地面に下ろしたとき、僕は改めて今日という一日を反芻してみた。苔むした岩が並ぶ静かな森の伊吹を吸い込み、初夏の陽光に照らされた真っ白な大雪渓の感触を足裏で確かめた。そして、標高3,000メートルの頂に立ち、吸い込まれそうな蒼穹の下で、権現池を見下ろした。そして、轟音とともに落ちる豪快な三本滝の飛沫を全身で楽しんだ。一山の中にこれほどまでの多様な美しさが、これでもかと詰め込まれている最高に贅沢なフルコースだった。身体には確かな疲労が刻まれているけれど、心は不思議なほどに軽く、瑞々しい充足感で満たされている。

    乗鞍高原「湯けむり館」の湯へ

     心地よい疲れを抱えたまま、僕は最後のご褒美を求めて、乗鞍高原にある「湯けむり館」へと車を走らせた。登山口からほど近い乗鞍高原にあるこの温泉は、登山者にとっての最高の癒しがある場所だ。

     脱衣所で登山服を脱ぎ捨て、浴室へと足を踏み入れる。そこには、木の温もりを感じる空間に、たっぷりと湛えられた湯が待っていた。ゆっくりと、足先からその熱に身を沈めていく。 ピリピリとした刺激の後に、じわじわと筋肉の強張りが解けていく感覚。乗鞍岳を歩き抜いた足の裏、岩を掴んだ指先、ザックを支えた肩。身体の隅々にまで、温泉の滋養が染み渡っていくのがわかる。

     豪快な滝があり、静かな森があり、真っ白な雪渓があり、そして3,000メートルの頂からの絶景があった。これでもかと見どころが詰まった、実に贅沢な一日だった。

    地点到着時刻備考
    三本滝駐車場6:21出発
    冷泉小屋7:49高度と共に変化する景色を楽しむ
    位ヶ原山荘8:04森を抜け、空が大きく開けてきた
    肩ノ小屋9:41バスで来た人々とも合流
    乗鞍岳(剣ヶ峰)10:42標高3,026m。 北アルプスを見渡せる特等席
    肩ノ小屋11:50小屋で小休止
    大雪渓13:05再び雪の感触を楽しみながら高度を下げる
    位ヶ原山荘13:23ここから再び、森へ
    三本滝13:58旅のもう一つのハイライト。 豪快な水を体感
    三本滝駐車場14:58下山完了

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