
穂高神社奥宮の鳥居をくぐり、神域へと足を踏み入れる。明神池の拝観料は大人500円。池のほとりへと進むと、そこには明神岳の荒々しい岩肌を映し出す、鏡のような静水面が広がっている。一之池、二之池と続くその佇まいは静謐さに満ちている。
参道のすぐ近くには、上高地の歴史を語る上で欠かせない嘉門次小屋(かもんじごや)が佇んでいる。

ここは、ウォルター・ウェストンの相棒として知られる、上條嘉門次(かみじょう かもんじ)が明治時代に建てた小屋だ。今も囲炉裏で焼かれる「いわなの塩焼き」が有名だが、小屋のすぐ近くには彼の功績を称えるレリーフが岩に刻まれている。

明神橋を渡り、梓川左岸へ
奥宮での参拝を終え、再び参道を戻って明神橋へと向かう。吊り橋の上からは、エメラルドグリーンに澄んだ梓川の流れと、先ほどよりさらに近くに感じる明神岳の岩肌が一望できる。この橋を渡ると、帰路となる梓川左岸のルートに入る。

橋を渡りきった地点にある「明神館」付近では、スタッフの方々がオープンに向けて忙しそうに準備を進めていた。4月下旬の開山直後らしい、静かな活気に満ちた光景だ。

ここからは左岸の林道を通り、ゴールの上高地バスターミナルを目指して、さらに1時間ほどの歩行を続ける。
梓川左岸:静かな林道と春の足音
明神館を後にし、帰路は梓川の左岸に沿って上高地バスターミナルへと戻るルートを歩く。ここからは起伏の少ない平坦な林道が続き、木々に囲まれた穏やかな道が続いていく。

4月下旬、標高1,500mを超えるこの地には、まだ冬の名残がある。日陰になる場所には、道残雪が残っていた。

ひんやりとした空気を感じながら足元に目を向けると、雪解け直後の湿った土から、鮮やかな緑色をした蕗のとうが顔を出していた。まだ芽吹いたばかりの瑞々しい姿に、山の確かな春の訪れを感じる。

単調になりがちな林道だが、時折、梓川の河原へと視界が開ける場所がある。流木が点在する広い河原の向こうには、真っ白な雪を纏った穂高の連峰が青空を鋭く切り取っており、その雄大さに思わず足を止めて見入ってしまう。

やがて、カラマツ林に囲まれた広々としたエリア、小梨平(こなしだいら)キャンプ場に到着した。

ここは上高地のなかでも屈指の絶景スポットだ。キャンプサイトのすぐ目の前には梓川が流れ、その向こうには遮るものなく穂高連峰の大パノラマが広がっている。河原の土手に腰を下ろし、爽やかな風に吹かれながらこの景色を眺める。

小梨平キャンプ場を後にし、梓川沿いの道をさらに下っていく。数分も歩けば、河童橋が見えてきた。

朝8時半に通りかかった時の静けさはどこへやら、橋の上は多くの観光客で溢れかえっている。残雪の穂高をバックに記念撮影をする人々を横目に、僕は足を止めることなく、足早に通り過ぎた。

ここから上高地バスターミナルまでは、整備された道を歩いて約5分ほどの距離だ。

バスターミナル:旅の締めくくり
バスターミナルへと到着した僕はまずは帰りのバスの時間を確認する。

バスを待つ間、ビジターセンター前にある水場で、空になったボトルに水を満たす。冷たく澄んだ山の水は、数時間の散策を終えた身体に染み渡るようだ。

帰りのバス乗り場には、すでに列ができていた。皆、充実した表情でバスを待っている。30分おきに来るバスに乗り込み、車を停めた沢渡へと戻る。

沢渡:足湯で癒す最後のひととき
30分ほどバスに揺られ、沢渡バスターミナルに帰還。今回の散策の本当の締めくくりは、第2駐車場のすぐ隣にある足湯だ。

靴を脱ぎ、少し熱めの湯に疲れた足を浸す。
大正池の鏡のような水面から始まり、春の日差しに輝く山々、湿原の木道、明神池、そして小梨平の絶景。約4時間半、自分の足で歩き通した心地よい疲労感が、お湯の中に溶け出していく。
上高地から奥穂高岳へ|涸沢テント泊一泊二日で見た、忘れられない奥穂高の朝焼け
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